ドイツ、スイス再生可能エネルギー視察旅行

4月10日 スイスへ 木質エネルギー中心に見学

 乗用車でアウトバーンを走ってスイスへ入りました。バーゼルの近くのメルヒナウ村、デェグテン村、ブーベンドルグ村です。フライブルグから約2時間。
 国境を越えるのは意外と簡単でした。時にはパスポートの提示を要求されることもあるようです。ただ、荷を積んだトラックは長い列を作って関税の調査を待っていました。
 今日の目的は、木材を中心にした再生可能なエネルギー使用の実態の見学です。ベルンにお住まいのジャーナリスト、滝沢かおりさんが合流、案内してくださいました。滝沢さんも環境問題の研究者です。
 今回の旅行は、テーマについての専門家の方がガイドしてくださったので、思った以上の収穫が得られ、内容の濃い旅になっています。

メルヒナウ村の地域暖房

 まず、メルヒナウ村では、「すべての始まり」という村のチーズ工場の見学です。37の農家組合が運営しています。
 チーズ工場は、ヨーロッパの人にとっては日本で言えば豆腐屋さんと同じ感覚なのでしょうね。食生活にかかせない食品です。さらに、イギリスへ輸出されているチーズは、このチーズ工場で作ったものだけだということで、エーメンターラとよばれている、穴のあいた独特のものです。宿の食事にも毎日欠かさず出ています。
灯油のようにペレットが配達される

 このチーズ工場のボイラーのエネルギーはもともと灯油を使っていましたが、木質チップへと切り替えが行うことになりました。
 そのときに出た熱を無駄にしないように、地域暖房に利用していました。つまりコージュネです。村の学校や施設、個人の家など25棟の暖房に使われているのです。
 ガスの配管のようにパイプを通して温水を送ることによって、化石燃料が大幅に節約されます。
 この設備はすんなりいったわけではありません。村としては取り組めなかったので、即株式会社を立ち上げて実行したパイオニアがいました。
 その中心メンバーであるドッペンターラさんが、説明をしてくださいました。

 配管には18万ユーロ、日本円で1億8千万円かかかりましたが、お客さんに一回だけパイプの接続料金を払ってもらっています。
 また、太陽温水器の設置では、住民に1000フランの出資をお願いし、代わり、1年に100フランのチーズ券を10年間配っています。
 なかなかいい方法だと思いました。出資者に損はありません。
 熱を無駄にせず環境を守ろうとする熱意がなければできるのもではありません。儲けが中心の発想ではありませんね。

 さて、どれだけ節約できているかの例では次の訪問した、ドイエンベルガ−さんのお話にもありました。ドイエンベルガーサンは農業と林業の両方に携わっています。
 こちらで農家は体外山を持っていて、農林業を同時にやっている方が多いそうです。
 ドイエンベルガーさんは使い物にならないまきを燃やした熱を暖房や給湯として使っていますが、この極寒の冬、3軒分でまきは180立方ですんだそうです。
 さらに、3重窓や25センチ以上の断熱材などの使用を決めた新しい建設基準の家は、2立方だけで済んだと言うのです。
 ドイツもスイスも、住宅の建設に厳しいハードルがありますが、暖房と冷房に使うエネルギーの節約は、温暖化対策の重要な取り組みです。再生可能なエネルギーは、搾った牛乳を冷ますときに出る熱まで無駄にせず、蓄熱して暖房などに使っているお宅も訪問しましたが、驚くばかりです。

 こうした小さな単位での省エネをめざすコージュネを広めてゆくことは、EUの大きな目的にもなっています。
私が感心したのは、とにかく脱原発と化石燃料などから再生可能エネルギーへの転換への、真剣に取り組む姿です。
 そして、行政の取り組みを待たずにとにかくやりだすパイオニアがいることで、そこから発して住民の力で、政治を動かしているのです。
 基本には、EUが地球温暖化政策に真剣で、数値目標もきちんと持って望んでいる姿勢があります。自分だけよければいいという貧しい考えではなく、科学的根拠に基づいて、地球温暖化に取り組んでいる姿勢を日本はなぜ学ばないのか、はずかしかぎりです。
 決定的なのは、日本の政府は将来を展望したエネルギー政策を持たず、大企業に対しても政治的に野放しにしてすき放題やらせていることです。

元は保守的で原発賛成の方が・・・

 ドッペンターラさんは、村人との共同経営で畜産にもかかわっていますが、ここでも牛舎に大規模な太陽パネルを設置しています。牛舎の運営で使ったあとのあまった電気の売却先を探し、何社かと契約しています。30万フランの株式で、10分の1が株式会社の収入だそうです。
 買い取り制度が進んでいるので、こうした取りくみが生きてくるのですね。

 ドッペンターラさんは、もともとは保守的な方で、原発も推進の立場にあったそうです。しかし、今ではこのようなすばらしい活躍をしています。
 原発は安全性も将来性もないと方向転換したそうですが、自由なものの考え方ができる姿には、心打たれるものがありました。

スイス国民に与えた3・11のショック

 午後は、木材屋さんのサミュエル イエニーさんを訪ねました。大きな材木屋さんでした。主にまきを作って販売しています。
 まき割りの機械をデモンストレーションしてくれましたが、すごいものですね。このまき割り機は山の中まで入り、伐採された場所でも操作できるとのこと。
 もちろん、林道が整備されているからです。荒れ放題で、林業が成り立たなくされているから持ち主さえ代が変わってわからなくなっている日本の里山と違います。
 サミュエルさんの、大変印象深かった言葉があります。
 「2011年の3月11日は、スイス国民に大きなショックを与えた。それ以来、地元産の安全なエネルギーを使いたいという要望が強くなっています。石油はもうけたお金で戦争をする。木質エネルギーは労力だけです」
 ここで出荷される木材は、地元の森から切ったものだとの証明がついています。

 最後に見学したのは、キッチンメーカー会社「チバ」です。
 煮炊きやオーブンまで、台所燃料の木材を使い、暖房にもなるというシステムキッチンは、日本の住宅に合うかどうかは別として、すばらしいものでした。
 今日の見学で、私は大変な刺激を受けました。皆さんの地球と生命体を守る真剣な努力に、私にできることはなんだろうと考え込んでしまいました。
 明日も、終日スイスに入ります。