コラム―散歩道

車の思い出

「1週間に2台はあなたが始めて」

 私が車の運転免許証を取ったのは、31歳のときです。子どもが2人になったら、とてもじゃないが自転車通園・通勤はもうできないと必死でした。
 免許は根気。最後はつぎ込んだお金の額を思い返しながら、意地でがんばって無事合格、免許を取ったとたんに二人目を妊娠です。妊娠中は切迫流早産でずっと安静生活でしたから、まったくラッキーなことでした。
 初めての運転は出産後でしたが、買って間もない中古車を思い切りぶつけ自損しました。「なんでここに電柱があるの!!」と言うわけで、1週間たたずにもう一台買う羽目になってしまいました。「1週間に2台買っていただいたお客さんはあなたが初めてです」そうでしょうとも・・・・、とほほ。

「わかったか、だから気をつけろ」

 免許取り立てのときは小さな事故は付きもの。でも、日本の教習所はずいぶん丁寧な教え方をしているとおもいます。

 先日、ラジオ放送からイタリアでの免許の取り方が流れてきました。イタリアの教習所は教習コースを持たないのだそうです。教習者は路上や空き地で直接訓練、規定の時限数もありません。自分が「大丈夫」と思ったら、教習所に試験官が来るときに試験を受けに行くのだということです。
 驚いたことには、冬の路上での練習です。氷の湖で「急ブレーキをかけろ!」と教官、当然、「キューン、クルクル!!キー!」とスピンです。「わかったか、凍ったところでの急ブレーキは気をつけろ」!!なんという乱暴な実地訓練でしょう!!

 中国では、免許証があっても交通ルールを守る気配がありません。道は通行人と自転車、リヤカー、車が、縦横無尽に走っており、クラクションが鳴りっぱなし、騒々しいったらありません。小さな事故は始終あって当たり前。
 「ルールはあるのですか」とガイドさんにお聞きしたら「あります。勇気のあるものが優先です」とのことでした。「でも、オリンピックや万博のおかげでいろんな場面で少しづつマナーがよくなっています」とも言っていました。

ママポリの追突事故

 この31年間で出合った最大の事故は10年前の「ママポリ事件」です。工事で片道通行になっていた道の赤信号で止まり、ふとバックミラーを見たら、車が突進してくるではありませんか!!身構えました!ガッツーン! ぶつけてきたのは、新米のママポリでした。完全に相手の責任です。

 問題はここからです。私は仕事の予約で急いでいたので、相手のポリスに名刺を渡し職場へ走りました。程なく職場に警察の彼女の上司から電話がありました。「当て逃げは犯罪ですよ。すぐに出頭しなさい!」怒った私は早速「出頭」、「ぶつけたのはそちらの職員ですよ。ほら、見てください!」と、後ろがぼっかりとえぐられた車を見せました。相手が平謝りに謝ったのはもちろんですが、腹立たしかった。
 修理の見積もりが当時で30万円ほどでした。年季の入った車のため保険の補償額は8万円が限度だったので、新しい車を買う羽目になりました。大損害でした。
 「こんなにひどい追突だったのに良く鞭打ちにならなかった」と相手もホッとしていましたが「来た!」と身構えていたから助かったのです。運がいいとしか言いようがありません。これで鞭打ちになったら、踏んだり蹴ったりでした。

父のカントリーロード

 父が脳卒中でたおれて、母は介護で疲れていました。休暇をとって出かけていた私も、小さい子どもが3人いればそれも限界でした。

 夫が「長野で見よう。僕が主治医になろう」と言ってくれ、義兄と一緒に宮城まで迎えにいってくれました。当時の愛車はホンダのカントリー、今は廃止になった車種です。バンのように後ろの座席をフラットにできましたから、小さい子どもを乗せるには便利と思って換えたばかりでした。まさに、父のために買い換えたと言わんばかりのタイミングだったのです。

 父は4ヶ月の闘病生活ののち、クリスマス・イブに亡くなりました。その直前に「家に帰りたい、帰りたい」とすがっていた父に「今日は外泊できないから我慢して」と言い聞かせた矢先でした。

 夕べ遅くに、夢の島での赤旗祭りを終えた私たち長野の実行委員のメンバーは、たくさんの荷物とともにワゴン車に乗って長野に帰りました。
 体を縮めて椅子に横になり私が思ったことは、26年前の父のこと。「点滴をしながらの狭い車での移動では、ずいぶん我慢してきたのだろうなあ」。そして「死ぬ前に外泊させてあげればよかった」と後悔の気持がまたふつふつと湧いてきたのでした。
 「カントリーロード この道ずっと行けば あの町に続いてる・・・」こんな歌も浮かんできて、父は帰りのカントリーロードを楽しみにしていたろうに・・・と窓の外を見れば、美しい東京の夜景でした。たくさんの人生とくらしがともっていました。

           (2010年11月8日  記)