コラム―散歩道

二度目の中国のたび

 参議院選挙がおわって次が始まる間隙をぬって、2度目の中国の旅に出ました。6年前は戦跡をたどって「満州」へ、今回は、上海、南京、黄山へ、南京大虐殺記念館の見学と魯迅を訪ねるのが目的の旅でした。ところが計画を立てたあとで第2回中央委員会総会の日程が決まり、ちょうど重なってしまったのです。そこで、せめて最終日には帰ってこなければと予定を2日短縮、4泊5日にして9月26日に帰国しました。
 キャンセル料は一人2万5千円なり。紹興市を削ったのも、うーん、痛かったが仕方がない。メンバーは私と末娘、仲間2人の4人でした。

尖閣諸島のさわぎの中で

 おりしも、尖閣諸島沖で中国漁船と海上保安庁の巡視船の衝突事故問題が起きたばかりでした。日中の緊張感が高まっており、家族からも「こんなときにいかなくても」との声もありましたが・・・決行しました。
 実際には、日本の報道のような騒ぎは一般市民の中ではほとんどなく、万博会場も平穏でした。

 ただ、中国人の心の中までは覗けません。ガイドの曹さんの話では「私たちの周りで食事をしていた人たちの話題はそれ(日本への批判)でしたよ」とのことでした。
 曹さんも、日本に対して大変厳しい批判をしていました。
「せっかく友好関係ができてきているのに、日本はなぜ中国を刺激するようなことをするのだ」と。
「事件の経過の詳しい事実はまだ報道されていません。でも、原因の大本は領土問題。はっきりさせなければ、こうしたことはこれからも起きるでしょう。事実を元に話し合いで解決しなければ」
 「領土問題はケ小平が棚上げにしたのだから、そこに触れなくても平和的に解決できるはず。緊張感が高まって争いになってはいけない。もう、旅行会社は痛手を受けている。日本への買物客も行かなくなる」

 尖閣諸島は歴史的経過からも国際法的にも、日本の領土であることは明らかです。中国の態度はあまりにも冷静さを失っているし、また、「たなあげ」を許し、きちんと交渉してこなかった日本政府の外交にも問題があります。そんな話もしたかったけれど、曹さんの怒りの前では、それ以上深くは話しあえませんでした。「話し合いで解決」では一致なのですが。

南京大虐殺記念館と魯迅記念館

 2007年に増改築された「南京大虐殺記念館」は、大変な広さと膨大な資料で、見学時間が足りませんでした。目を背けたくなる資料のひとつに、当時の日本の新聞記事の拡大展示がありました。
 見出しは「百人斬り超過記録・向井106−105野田・両少尉さらに延長戦」とありました。中国人を競って殺させた報道記事です。
 元日本兵の南京大虐殺の証言は、大写しのビデオ画面を見ながらヘッドホーンで聞くことができました。「これを聞いたら中国の人はどう思うだろう」という娘の感想は、人間として当たり前の感じ方です。およそ30万人が虐殺されたと推測されています。

入館前にガイドの曹さんが言いました。
 「日本には『屠殺』と言う言葉がありますね。南京は『虐殺』ではない。『屠殺』ですよ。ここを見学した後、中野さんはどう思われるでしょうか」と、日本があの侵略戦争を反省しないばかりか美化までしていることへの、中国人の怒りをぶつけられました。
 しかし、展示会場のパネルでは、再び過去に戻ろうとしているのは「日本の一部の勢力」と冷静に記されていたので、私はホッとしました。
 記念館を出ると真正面に、子どもを抱えた女性が片手を高く掲げ鳩を放とうとしている真っ白い像が、大空にすっくと立っていました。残虐な事実を突きつけられたあとだっただけに、人類の気高い願いが胸に沁みました。

 上海の魯迅の記念館では、小林多喜二が虐殺されたときに魯迅がしたためた「同志小林多喜二へ」との弔文が展示されていました。
 ああ、海を越えて中国と日本の良心が通い合っていた。日中両国民の願いはここにあると、掲げられていた多喜二の写真を感慨深く見つめてきました。

 日中両政府は、尖閣諸島のことでもそうですが、国の身勝手な思惑を捨てて、友好を望む国民の願いに応える外交の努力をするときでしょう。

すすむべき道を探って

 黄山の近くに南宋や唐時代の古民家集落があります。一千年も前の民家に、保存のため今でも人が住んでいました。古き歴史を持つ偉大な中国。
 近辺では、農民が水牛で田畑をおこし、馬が山のような藁を積んだリヤカーを引く素朴な農村の風景。農村地帯では、政府が補助制度を始めたものの医療保険はなく、一人っ子政策では、厳しい都会と違って戸籍がなくても二人いるのは当たり前。戸籍移動は大卒で都会の仕事に就くなどの理由がない限り禁止と封建的、これも中国。
 上海万博開催では、近代化を進め世界に力を示すため7千万人を入れる目標とのこと。矛盾をかかえながら大きく動いている中国は、また行きたい魅力的な国です。日本の文化のルーツでもありますから。
             (2010年10月2日  記)