コラム―散歩道

立山連峰縦走記

一泊二日の計画で
 総選挙を終えた9月25(日)、26(月)、立山連峰を縦走した。パーティはSさん、Tさんと3人、連休の混雑を避け一日ずらして計画、正解だった。

 自宅発6時半、扇沢からトロリーバス、ケーブルカーを乗り継いで、黒部ダム経由で富山県室堂へ。扇沢から室堂までの交通費は往復で8400円、登山者にとってはお高いのが難点だが、急勾配の地下トンネルをいくケーブルカーは黒部ダムの建設の苦難を思い起こさせる雰囲気だ。

 室堂集発10時10分。浄土山に向かう。
一日目は、浄土山から一越経由で雄山、大汝山、真砂山を縦走し、内蔵助山荘で泊。二日目は、別山から地獄谷を通り、みくりが池温泉で湯に浸かる計画だ。 立山連峰の、浄土山、雄山(大汝山、真砂岳含む)、別山の三山を縦走できる嬉しさで一歩一歩踏みしめて歩いた。

 浄土山へ
 一日目はあいにくのお天気でガスが濃くまいており、おまけに時々小雨も降る始末、周りの景色は何も見えない。足元に咲くイワキキョウ、イワツメクサ、トウヤクリンドウの可愛い花たちがせめてもの慰め。露にぬれている紅葉したチングルマの風情を楽しみ、ガスの中を歩き回っていた雷鳥との感動の出会いもあった。

 浄土山山頂着11時30分、2831m。
 一越まで下って昼食をとる。身を寄せるところもなく小雨の中カッパを着ておにぎりにかぶりつく。

 日本三大霊山のひとつ、「雄山」
 一越出発12時、3003mの雄山へ向かう。一越から雄山山頂までが、今回の行程の中でもっともきつく感じたコース。山頂まで岩場の胸突き八丁が続いていることと、何より足元だけしか見えかったことが要因だ。晴れていれば、壮大な景色が眺められ、どんなに気分爽快だろうに・・・・と思いつつ、ひたすらもくもく歩き続け、まさに霊山に苦行しにきたかの気分になった。

 1時30分、雄山山頂。
 3003mの山頂に忽然と現れた社務所と、正装した神主さんや巫女さんに会い、いささかの違和感をおぼえる。山の上も金の世界、 500円だしておはらいをしてもらい、お神酒をいただく。「あれ、これっぽっち?」と不謹慎な感想。

 雄山は、富士山、白山と並んで三大霊山として有名な山である。富山県では、青年はこの山に登って初めて、一人前のおとなとしてとのお墨付きを与えられるという。険しい霊山への修業登山の精神が脈々と流れているのを感じるが、この山を登るだけの体力と気力を持つ青年であって欲しいとの、庶民の願いがこめられているのであろう。
 富山県人の雄山への尊敬と、凛として美しい立山連峰への誇りはゆるぎないものがある。
 いつか富山に行ったとき、赤星ゆかり市会議員とそのご一行様に案内していただいたカクテルバーで、80歳は過ぎているおしゃれで魅力的な女性が、シェイカーを振ってオリジナルカクテル「立山連峰」を作ってくださったことを思い出した。
 彼女もきっと、立山連峰をこよなく愛しているのだろうと、その時思った。

 立山連峰最高峰の大汝山へ
 立山連峰の最高峰、3015mの大汝山に2時30分着。ガスっていて何も見えない。
 2時45分出発。さらに2861mの真砂岳に登り、山荘まであと一時間だ。小雨の登山は苦行難行、こうなったら少しでも早く着きたいとの思い。真砂岳山頂から東へ少し下ったところにある内蔵助山荘着3時45分。濃霧の先に、山荘は突如として目の前に現れた。室堂から歩き始めて5時間35分の行程、小雨のため予定より30分オーバーしたが無事到着。ずぶぬれのカッパやタオルなどを干し着替えをしてほっとする。
 数年前、この山荘を目前にして7人が遭難死した。中高年登山の私たちは用意周到に計画しなければ。

 満天の星をみあげて明日に期待
 山荘は私たち3人を含め5人だけの泊り客で、連休をずらして正解。さもなければ一畳に二人寝るくらいの混雑を覚悟しなければならない。あとのお二人は60代のご夫婦で、わざわざ兵庫県明石からきたと言う。こんな時は長野に住んでいる贅沢さをしみじみ思う。明日の天気に期待をして8時就寝。

 12時に目覚める。窓から空をのぞけば満天の星だ。飛び起きて外に出た。東の空低くオリオン座、星屑の一つ一つが見えるような天の川をはさんで、夏の大三角形の星、アルタイル、デネブ、ベガが、天に打ったダイアモンドのように輝いている。下界では見ることのできない澄んだ輝きに、ただ引き込まれて見入る。
 再び眠りについて5時起床。昨日と打って変わって好天気、暗がりの中に黒い山々が重なり合ってくっきりと広がっている。昨日は足元しか見えなかった世界がまるでうそのよう、深い感嘆のため息のみ、言葉を失う。

 最高の登山日
 日の出は5時40分、雲海をついてそびえる白馬三山、鹿島槍、爺ヶ岳など、後立山連峰が刻々と変化するさまを見逃すまい。太陽があがりきるまでの瞬間、地球が太陽から命を受け取ってゆく荘厳なドラマを見るために、私は山に登りたいのだ、とさえ思う。

 この日はできるだけ山にとどまっていたい思い一杯で、ゆっくりと楽しみながら歩く。
 6時30分山荘出発。立山連峰最後の峰、別山2880mの山頂7時30分到着。別山山頂の魅力は、眼前にそびえる剣岳の姿だ。2998mの荒削りで神々しいまでの剣を眺め、しばし休憩する。シャッターを盛んに切った。

 ゆっくり下山、温泉へ
下山するのが惜しくてならないが、景色を目に焼き付けるようにながめながらゆっくりと降りはじめる。
 今年のあの異常な暑さは紅葉にも影響を及ぼしており、例年より一週間遅れとのこと、それでもナナカマドが色づいてきていた。きりりとしまった空気、綿毛をなびかせたチングルマの群生、コケモモの愛らしい花、日をあびて鮮やかに紫の色彩を放っているイワキキョウ・・・山は別世界だ。

 計画の最終の地獄谷を歩く。地獄谷は名のとおり、一帯の風景は地獄絵のようだ。大変広範な範囲で硫黄が山肌を荒らし、あちこちから源湯が噴出し岩は硫黄で真黄色、有毒ガスの噴出しは猛烈で、そのガスの中を通過する時、のどはいがらっぽくせきが出て、目は痛くなってしまった。「立ち止まってはいけない」との看板あり。
 その地獄谷を通ってきてたどり着いたみくりが池温泉は、「日本一高いところにある温泉」だそうで、「極楽浄土」の気分であった。

                            (2005年10月3日記)