コラム―花によせて

花によせて

その9  秋桜

 新潟市で開催された第58回日本母親大会の文化行事で、ナターシャ・グジーさんが澄み切った声を存分に聞かせてくれました。特に、山口百恵さんの歌をカバーした「秋桜」は、嫁ぐ日の母娘の情を細やかに歌いあげ感動を呼びました。隣のMさんはしきりにハンカチを目に当てていました。
 虫の音が聞こえるようになった台所で、包丁を使いながら「秋桜」を口ずさんでみます。コスモスの季節がやってきました。

 昔、小学校の教員をしていた時に、国語の教材で物語「ひとつの花」を扱ったことがあります。
 食料が欠乏した戦争時代、幼いゆみ子が最初にはっきり覚えた言葉は「ひとつだけちょうだい」でした。そうやって食べるものをねだったのです。やがて戦争が激しくなり、出征することになった父が「ひとつだけ」と泣きじゃくるゆみ子に渡したのは、手折ったコスモスの花。「ほーら、ひとつだけの花だよ」と。
 10年後、豊かにさいたコスモスに包まれた家からミシンを踏む音がきこえます。つつましく明るい母子の生活が映し出されます。父は帰ってこなかった。
 作者の今西祐行氏は、学徒出陣で駆り出され、また、原爆投下された直後、広島で救援隊として活動もしてきた戦争経験者です。彼の平和への願いが伝わってきて、私自身が感動して授業をした記憶があります。

 「コスモス」はギリシャ語で調和、秩序、美しさなどの意を持ち、「美しい星がならんだ宇宙」を現す言葉です。花のコスモスの命名とは別段因果関係はないのかもしれません。でも、関連づけて考えたら、「秋桜」も「ひとつの花」もコスモスであってこそと、感じ方が膨らみました。
 「秋桜」では、限りない宇宙の大きさに母の娘への掛け値なしの深い愛情が重なったし、父は奪われてしまったが、「たった一つの花」だったコスモスをたくさん咲き乱れさせ明るく話を閉じたところに、戦争を乗り越え、あまたの星の中でも二つとないすばらしき緑の地球の平和をめざそうとの、私たちへのメッセージがこめられているのではないかと想像を巧みにしたのです。

 「コスモス」の言葉をはじめて使った人は、ピュタゴラスだそうですよ。

 黒姫山麓は百万本のコスモスで有名です。自宅から車で30分ほどなのに、行ったことがないなんて!!今年はぜひ、行きたいものです。
       (2012年 9月5日 記)