コラム―花によせて

花によせて

その3  イヌフグリ

 イヌフグリが土手を空色に染めて春を告げたと思ったら、あっという間にりんごの花の季節になりました。春の遅い信州に住むものにとってイヌフグリは、コチコチになっている体も心も解きほぐす、希望の花です。
 この花の名を「イヌフグリ」と知ったのも、「フグリ」の意味を知ったのも、中学生の理科の時間でした。「ギブス」が教えてくれました。ニックネームです。ギブスはいつも白衣を着た精悍な先生でしたが、体の動きが固かったの「ギブス」。
 中学の先生はみんな、ニックネームがついていました。ギョロメの数学の先生は「メーデー」、色白美人の国語の「キューピー」もまさにぴったしで、キューピー人形にそっくりでした。「どんかん」は音楽の太田先生、太田道灌をもじったのか。「えんとつ」「さぶちゃん」「カッパ」・・・・・・・。
 ニックネームには、信頼と親しみがこもっていましたね。母さえ先生のことを「カッパ先生」などと呼ぶ始末です。
 尊敬するギブスに教えてもらったイヌフグリ、「なんでこんなかわいい花にそんな名前を・・」と思いながら、見たことのない「フグリ」でしたから、「ふーん、こんな形をしてるんだ」と興味心身で見入った思春期でした。
 もうひとつ「イヌフグリ」が強く印象付けられたのは、歌の「イヌフグリ」でした。

  おかは いまも しばやま
    イヌフグリも咲いていた

 そのおかに、お茶の子をもって一緒にのぼって遊んだ、幼馴染であろう国さんが戦争に行った。イヌフグリをほうりつけて。そして、「手紙も届かぬとおくで口もきかずに死んだ」。
 「イヌググリをわすれない。国さんもわすれない、ずっと。戦争の悲しさをわすれない。戦争がおこらんようにする」と歌は終ります。
歌の「イヌフグリ」でも、春一番に咲く花への希望と重ねて、平和への願いをこめているんだ、と思いました。
 今日は憲法記念日です。出勤の車の中で「イヌフグリ」を歌いながら、憲法が生かされる日本にしたいと思いました。戦争を無くすことはもちろん、震災や原発事故を通して、「いのちとくらし」を大事にする庶民の当たり前の願いが、大きなうねりになっています。
 (2012年 5月3日 65回憲法記念日に)

       (2012年月日  記)